鎮魂歌

私たちは惹かれあった。
それは否定することのできない事実。

でもそこにはいつも何かほんの少しの違和感があった。

それが何であるのか私は明確に指摘することができなかったし、
それらはあまりに瑣末であったので
私たちの感じていた強い惹かれ合いを止めることはなかった。

だがいつも私はそれを感じていた。

今思えばそれは小さいけれどとても重要なものだったのだろう。

例えば、「鍵」とか、「おへそ」みたいな、
存在だったのかもしれない。

彼女が彼女の友達について話す時、私はなぜか不愉快を感じた。
彼女が彼女の将来について話す時、自分は不安を感じた。
彼女が何かについてコメントをつける時、私はなぜか’居心地が悪かった。
そこに、何か隠された秘密の意味があるような気がした。

私は普段、そういう風に感じることは他の誰に対してもなかったのだ。

でも彼女に対しては感じた。

その居心地の悪さを私は無視した。
きっと慣れるだろうと思ったからだ。

★ ★ ★

彼女が私をどんな気分にしようとも、彼女は私がデートしてたたった一人の人間だったし、私が彼女に魅力を感じる事実に代わりはなかった。

私たちは心の隙間をうめるように、体を重ねた。
手をつないでキスをした。
彼女は花束を贈り、私は彼女に食事を作った。

2人でいる瞬間には2人の心もぴったりよりそってるように感じたが、離れるとすぐに遠く心も離れてしまうように感じた。

★ ★ ★

私たちが小さいことで言い争いを始め、私が怒りを込めた携帯メールを3通送った後、彼女は私に連絡するのを止めた。

私は自分が怒りに任せて衝動的に無礼なメールを送ったことをすぐに後悔した。明らかにそこには誤解があると思ったからだ。私は自分の言いたかったことが彼女に伝わってないと思ったし、彼女の言いたいことも自分に伝わってない気がした。謝って話しあいたいと思ったが、彼女は電話に出なかった。私は留守番電話を残した。「ごめん。メールでは言い過ぎた。直接話そう」

翌日、携帯メールで「ごめん。気分がよくなったら、電話して」と送ったが、やはり反応はなかった。

何か問題があった時、向き合って話すというのは私が、恋愛関係において(というか人間関係全般において)もっとも私が重視することである。

特に、違う文化で育ってきて「常識」や「以心伝心」などが期待できない相手に対しては、以下に正直に自分の気持ちを伝え、相手の言い分を聞くというシンプルなコミュニケーションは本当に大事である。

もちろん、コミュニケーションは疲れる作業であるし、そんな努力を相手に対してしたくないという場合もあるだろう。例えば、今はそういう余裕がないとか、いろいろな理由で。全ての「知り合い」が私に対して全力でコミュニケーションしてくることを私は期待していない。ただ、自分のデート相手からはそれがほしかった。

私は、待っていた。
だが、彼女から連絡がないまま一ヶ月が過ぎた頃、私は諦めることに決めた。

待っててもしかたがない。

それに、ここまで相手がコミュニケーションする努力を見せないということが私を幻滅させた。
相手のことが好きとか嫌いとかそういう問題ではなかった。

私は、彼女との会話を楽しんだし、彼女は私が最近デートした中ではもっとも気が合い魅力的な女性だと思う。
私は今でも彼女に会うと魅力を感じるし、私たちは未だに惹かれ合ってると思う。

でもそういう問題じゃない。

惹かれるとか惹かれないとか、好き嫌いの問題じゃない。

私たちは基本的なルールすら共有できていなかった。

私は、自分に対して誠実にコミュニケーションしてこない相手と、遊ぶのは疲れた。
それは私が欲しいものとは違った。

私が感じ続けてきた、2人の間での友情、人生、恋愛に対しての根本的な価値観の違いが、はっきりとしていた。

そして、その根本的な価値観が共有できない上では

彼女の財力も美貌も才能も、何もかも、私を引きつけるためには充分ではなかった。

ウォーレン・バフェットの賢さと財力を尊敬はするが彼を愛しはしないように。
アンジェリーナ・ジョリーの美しさを崇めはするが彼女を愛しはしないように。

私はパーソナルな価値を求めていた。
私にしか分からない価値。
愛情という名前の、パーソナルな価値。

その愛情という絆で結ばれたなら、彼女は私に取って、どんな女優よりもどんな富豪よりも、スペシャルな、世界で一番素晴らしい存在になったのに。

彼女と、私の求める愛情関係が結べないと悟った今。

彼女がいくら着飾っても、彼女がいくらお金を稼いでも、彼女がいくら素晴らしい歌声を奏でても、私は彼女を恋人としては求めない。

息を飲むような才能なんていらない。
溺れちゃうくらいのお金なんていらない。
目が離せなくなるほど可愛くなくたっていい。
嫉妬するほど頭がよくなくなっていい。
ゲーテとか、リルケを暗唱してなくたって、
ベンツに乗ってなくたって、
そんなの心の底からどうでもいい。

私は、恋人になる人に、そういうのを求めてたわけじゃないんだから。

とても悲しいすれ違いだね。
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