Blogが書けなくなってしまい申し訳ありません!!

純はサンタモニカ大通りをゆっくりクルーズしていた。立ち並ぶ無数のクラブ。着飾った人々で溢れている。ロサンゼルスに引越してきた直後は、これらのパーティを別世界のように感じたものだ。しかしクラブへの送迎のバイトを初めてから、決してそうではないことに気づいていた。女優、アーティスト、モデル、実業家…。彼らの全てが既に名をなしているわけではないし、彼らのキラキラした肩書に怯える必要もない。彼らの多くは、愛人だったり、ウェイトレスだったりする。ただ、彼らは複数のアイデンティティをもっているのだ。平凡な自分と、スーパースターとしての自分と…。俺はどうだろう?留学が終わったらどうなるのか。アメリカに残ってスーパースターになるのか…。それとも…日本に戻って親父の…。

その時、車道にふらふらっと女の子が走り出てきた。

「あぶなっ」

急いでハンドルを切り、怒鳴りつけようと彼女を見ると、彼女は青ざめてた顔で「助けて…」とつぶやいた。

それがキキとの出会いだった。

だからって彼女をうっかり車に載せてしまうなんて馬鹿げている。まだ勤務時間中なのだ。…純は内心舌打ちしながら、助手席に座っている彼女の横顔を盗み見た。

小柄で、着飾ってるけど、まるで子供みたいだ。

「…大丈夫?何かから逃げてたみたいだけど」

「…。大丈夫。あそこのセキュリティ・ガイは最低の糞野郎だわ」

彼女が出てきたクラブは、サンタモニカ大通り沿いにあるラウンジ。

「何をやらかしたってわけ?お嬢さん」

「何も!ただアタシは楽しい時間を過ごしたかっただけよ。音楽とダンスとお酒でね…」

彼女はうっすらと微笑む。

やってるのはそれだけなのか?内心でつぶやいて頭を振った。

シラフで酔っぱらい相手の商売するのは辛いぜ。

「…それなのにバーテンダーのクソ女がアタシのこと無視しやがるから。」

「で、つまみだされちゃったってわけか。バカだなあ。あそこにはもう飲みに行けないんじゃん」

「関係ないわ。あいつ、アタシをサベツしたのよ」

純は黙ってキキを見た。キキは目を閉じる。洋服は薄いドレス一枚で見る所、IDとクレジットカードしか持っていないようだ。

「うちに泊まる?」

「…。うん」

内心高まる鼓動を抑えて、冷静に答える。

「一人だけ客送っていくから、寝てろよ」

コリアタウンのアパートメントに帰った時は、朝の4時近くなっていた。

助手席ですっかり眠りこけていたと思ったのに、そうでもないらしい。グラスにはいった水を飲み干すとキキは、こちらをキッとみた。

「助けてくれてありがとう。しかも今日泊めてくれて」

「いえいえ…」

純は、何故か後ろめたくなってうつむく。

「キキは…。キキは何やってるの?」

「アタシはアーティスト。ジュンは?」

「僕はビジネスの勉強をしてるんだ」

「へえ?てっきりタクシー運転手かと思ったけど」

「…。それは、仮の姿さ」

酔っ払って路上で知らない男の車に乗り込む尻軽女の君が、仮の姿であるようにね。

「ねえ。ジュンは何人?」

「コリアン。だけど日本で生まれ育った」

「へえ。そう。じゃあ日本語しゃべれるんだ?」

「喋るよ。キキは?」

「ベネズエラ人よ。アメリカ生まれだけど」

「じゃあスペイン語しゃべれるの?」

「もちろん。でも私はアジアの魂を持ってると思うわ」

…純は苦笑する。たまにいるんだよな。こういう奴が。でもアジア人の男を相手にしてくれる非アジア人女なんて、たいていアジア・フェチだったりするんだからしかたない。他の人種にはないスウィートさとやらを求めているんだ!それならまかせろよ。マーケティングはおてのもの。

純は、キキの隣に腰をおろす。

明日、ウィルシャーまでつれていってくれる?

もちろん。いいよ、近いし…。

キキはソファの上に横たわって目を閉じている。
濃い茶色い髪の毛が乱れている。
純は、手を伸ばし、その髪の毛を整える。

身をかがめてキスしようとすると、

「やめてッ」

キキが、鋭く言った。

「アタシは、男とそういうことはしないの」

どこか傷付いたような顔をしている。

「…はあ?」

「アタシは、ゲイなの。アタシが、あそこのクラブから出てくるのを見たでしょ?あのクラブ。木曜日はガールズナイトなのよ」

…。純はあっけに取られていた。げい?ゲイ?ゲイって、GAY?同性愛者のこと?レズビアンのこと?いや、違うでしょ。だって、だって、キキは可愛いし、化粧だってしてる。僕の家にあがりこんできた。可愛い。

「え?女も好きってこと?」

キキは冷たい声で訂正した。

「女「も」、じゃなくて女「が」好きなの」

「またまたそんなコトを言ってる。嘘だろ?ありえないよ。あはは。あはは。あはは」

「…」

キキは笑っていない。純はせきばらいをする。

「へえー。…それで!?カノジョとかそういうのはいるわけ?」

「…いる。なんとなく。っていうか、いたっていうのかな」

「へぇ…それは…」

「いたんだけどさ。結婚してるのよ。その女。私は2番目の恋人っていうわけ」

「…」

頭がくらくらしてる。

「ひどい女なの。嘘ばっかりついてるし。きっと嘘を付くのが平気なタイプの人間なのね。筋金入りのレズビアンだったって言い張るわりに、男と平気で結婚して、子供までいるし、そのくせ女の恋人あさりをヤメようとしない…。しかも、結婚してるとか子供がいるなんて、ずーっと後になるまで知らなかった…。夫とは離婚するする、実質的にはもう別居生活なんていいながらさ、全然そんなことないの」

「…へえ。君も嘘をつかれてたってこと?」

「そう。全部嘘だったの。はじめから最後までね。でもさ、人間って自分に都合のいい嘘って信じたいのよ。人間って弱いから、自分に都合が悪い真実は、それがいくら真実でも信じたくないし、自分に都合がよいことであれば、いくら嘘だって頭でわかっていても信じちゃうのね。嘘をついてくれさえすればいいの。そうすれば、弱い人間は、それを信じるのよ」

…。そうかもな。ついさっき、キキからカムアウトされた時のことを思い浮かべながら、純は答えた。

「エリカは…それがカノジョの名前なんだけど。アタシはエリカに対して弱すぎたのよ。今日まではね。でももう、それも終わった。全部終りよ。終わり」

「へえ…」

「今までもうコレで終わり!って決めたことが何回もあったわ。でも、なかなか諦めることができなかった。エリカみたいな子は他にいないというのもそうだし、エリカが連絡してくる限り、私はそれにNO!ということは出来なかった。私は弱い人間。でもそれは終わった。もう終わり。彼女の連絡先も、メールも全て削除できるわ。なぜって今日、新しい子に出あったから」

キキはニヤっと笑った。先程までの眠た気な表情が消え失せ、目をキラキラと光らせている。

「ジャニスっていうの」

オーケイ。純は本格的に混乱しながら、肩をすくめた。キキにキスしたいという気持ちはもう消えていた。翌朝起きたらきっと全ては夢だったということになるのかもしれない。そう考えながらベッドに倒れ込んだ。
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  • 2010/04/02
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