単数形にThey!? ジェンダーニュートラルへと向かう英語の変化

英語は時代と共に大きく変化してきた。その原因の一つとして、差別的とされる表記をなるべく避ける「ポリティカル・コレクトネス」がある。男性を表す「man」を避け、人間一般を表す「person」と使うなどの表記の変更は既に定着したといえるが、今現在も、新しい動きは生まれている。

英語で三人称単数を表そうとする時、一般的にはhe、she、his、herなどジェンダーによって使う単語が違ってくる。そこで、話題になっている「その人」が男なのか?女なのか?というような判断を常に余儀なくされてしまう。(この点、日本語だと、主語を明確にしなくても文章が成立するし、「その人」や「あの人」を使うなどして、ある程度ジェンダーを曖昧にしたまま話ができるので、結構楽な気がする)

かつては、一般的な話など、対象者のジェンダーが決められない場合や不明な場合には、heやhisで表すことが多かった。(以下の例文はOxfordDictionaryのサイトで使われているもの)

If your child is thinking about a gap year, he can get good advice from this website.
A researcher has to be completely objective in his findings.


その後、この表記はポリティカル・コレクトネスの考え方を受け、she or heまたはhis or herなど両ジェンダーを表記することが一般となった。

If your child is thinking about a gap year, he or she can get good advice from this website.
A researcher has to be completely objective in his or her findings.


ただこれだと多少文章が煩雑になってしまう。かといって、人に対して物を指すit(それ)を使うのもアレである。そこで、最近はthey、theirなどを使おうという動きがあるようだ。こんな風になる。

If your child is thinking about a gap year, they can get good advice from this website.
A researcher has to be completely objective in their findings.


They、their、themなどは、ご存知のように、「彼ら」のような三人称複数を表すために使われるジェンダーニュートラルな単語である。それらを単数形に使っちゃおうというのは、一見違和感を覚える人も多いかもしれない。学校の英語のテストで書いたら一発でバツをくらいそうだ。

この違和感は英語話者にとっても共通らしく、「theyを単数形に使うのは文法上間違っている!」とか「英語として美しくない」というように主張する人もいる。

しかし、実際には、they、their、themを単数形に対して使うことは、古い英語では普通に行われていたことなのだ。シェイクスピア、オスカー・ワイルド、ルイス・キャロル、ジェーン・オースティン、ジョージ・オーウェル、ホイットマンやフィッツジェラルドなど多くの文豪の作品にこの用法は見られるという。現代においては、ちょっと「え?」って思うような用法だが、決して間違いとは言い切れないのである。

また、仮に、この用法が過去において使われていなかったとしても、言葉は常に変わり、新しく生み出されていくもの。ゼロックスやクリネックスは一般名詞になり、Googleやfriendは動詞になった。時代の流れに合わせて、ジェンダーを問わない第三人称単数の言葉が生み出されていくというのは自然なことなのだと思う。私はその一部に自分が参加しうることに対してエキサイティングさを覚える。

この動きは、単なるポリティカル・コレクトネスを超え、自らをジェンダーを帯びた言葉で指し示されたくないという人々にとっても大きな意義がある。

クィアコミュニティにおいては、「自分自身のことをheと呼んでほしい?それともsheと呼んでほしい?」と確認するのは以前からありふれたやりとりだった。けれど、それでもどちらか一方のジェンダーを選ばなければ文章を作れなかった。また、一度呼称を決めると、多くの場合、それは一人の人についてはいつも一貫していることが多かった。theyの使用によって、ジェンダーの二項対立的な側面やジェンダーが一貫したものであるという考えを毎回強化しなくてすむ、というのはとてもいいことだと思う。

また、英語が第二言語である私は、普段からheとsheやhisとherを取り違えて聞き手を混乱させてしまうことが多かったので、これが共通ですむならとても楽という怠け者的な理由からも、嬉しい。

私もこれからは使える場面ではtheyなどを使っていこうと思う。
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comment

Re: 単数形にThey!? ジェンダーニュートラルへと向かう英語の変化
興味深く読ませていただきました。
性別の二分法をつねづね不合理と思っている者の一人として、こういう流れは私も支持したいと思います。

で、日本語ならどうするのか、ということも考えるのですが、日本語の場合、そもそも彼/彼女といった言い方が明治以降に西洋文献の翻訳から広まったものですよね。実際、彼/彼女など使わなくても文章は書けますし。しかしあえてtheyのような代案を考えてみるなら……すぐに反発も受けそうなことを承知で、「かれ」で統一とかどうなんだろう、と個人的には思っています。というのは、たとえば森鴎外の「舞姫」で女性であるはずのエリスが一貫して「かれ」と呼ばれていることなどに、私は以前から興味を持っているからです。当時はまだ彼/彼女の使い分けが日本語に定着していなかったわけですね。シェイクスピアの例のように古典に正統性を求めるなら、「舞姫」の例などは使えるかもしれません。
一方で、反発を受けそう、というのはもちろん、「かれ」に統一することがheへの統一と同様の、女性を男性に同一化する解決法だと捉えられそうだからですが。しかし私から見ると、「かれ」というのは元をたどれば「あれ」という漠然とした代名詞にも通じるもので、それを男性の三人称に限定したのが明治以降の翻訳文化にすぎなかったとすれば、それを性別不問の三人称として定義し直すのがそのまま男性中心主義への同化、とはいえない気がします。というより、どういう語を採用するのであれ、それが現在の性別二分法を超える方向に使われていけばいい、ということではないでしょうか。

ちなみに、中国語の共通語では現在、he/she/itに対応する語として他/她(女+也)/它が使われていますが、これは文字では区別されるものの、音はすべて同じ「ta」です。つまり、元は同じ語だったところに、日本と同様翻訳の影響で区別が持ち込まれた、ということがよくわかります。しかも中国語の場合、この区別は文字にしかありませんから、文字の形を少しいじって統一すれば、簡単に性別不問、さらには人間か動物かも不問の代名詞に戻るかもしれません。

というようなことをいろいろ考えさせてくれるこの問題、たしかに「エキサイティング」ですね。言葉というのは案外変わりにくい面もありますが、この流れがどこへどう向かうのか、興味の湧くところです。
  • 2012/01/08
  • s.i.
  • URL
Re: Re: 単数形にThey!? ジェンダーニュートラルへと向かう英語の変化
こんにちは。コメントありがとうございます。私も日本語について考えていました。「彼・彼ら」で統一したいけど……。って。ただ、日本語は、英語と比べると、ある程度ジェンダーを曖昧にしたまま文章を作ることが可能だと思っています。「その人」とかもあるしね。「彼」は語源的にはおっしゃるとおり、もともとジェンダーニュートラルだったと思いますが、「彼女」が発明されてしまった今では、どうしても、「男性」的な意味合いが強くなってしまっている気がするので……迷うところです。

中国語についての情報もありがとうございました。これからも、よろしくお願いいたします。
  • 2012/01/10
  • イチカワユウ
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