黒人トランス女性「シーシー」に正当防衛が認めれられなかった理由

シーシー・マクドナルドという一人の囚人の早期釈放が決まったことが英語圏でニュースになっている。彼女についての日本語の情報が少なかったので今日はこの事件について紹介したい。
それは、二〇一一年の六月五日の深夜のことだった。場所はミネソタ州ミネアポリス。

ファッションを学ぶ学生であり、性別移行の真っ最中でもあったトランス女性クリショーン・マクドナルド(通称「シーシー」。当時二十三歳)は、三人の友達と一緒にスーパーへ買い物に行こうとしていた。途中にあるバーの外には、酔っ払った常連客達がたむろしていた。シーシー達が全員黒人だったのに対し、酔客は皆白人で年齢ももっと上だった。彼らはシーシー達にホモフォビアとレイシズムに満ちた罵詈雑言を投げかけてきた。「オカマ!」「ちんこのついた女」「黒人野郎!」

シーシー達が「ヘイトスピーチは許さない」と抗議すると、女の一人が持っていたビールグラスをシーシーの顔に叩きつけて割り、頬を深く切り裂いた。乱闘が始まり、命の危険を感じたシーシーはハサミを引っ張りだして、抵抗した。胸にハーケンクロイツ(ナチスのシンボル)のタトゥをいれていたという男ディーン・シュミッツは、ハサミで刺されて死亡した。

シーシーも、頬を十一針縫う大怪我を負った。傷跡は唾液腺に到達していた。多くの人間が関わった事件だったが、シーシー達に差別的な攻撃をしかけた奴らは一人も逮捕されず、シーシーただ一人が捕まった。

この事件は、差別に基づく「ヘイトクライム」として注目を浴びた。確かにシーシーは人を殺めてしまった……でもこれって「正当防衛」じゃないの?

しかし、裁判において正当防衛は認められなかった。事件の背後にある差別については十分な考慮がなされたとも言えなかった。多くの活動家達や地元の政治家達の主張にも関わらず、検察は「ジェンダー、人種、性的指向などの要素は決定に影響を与えない」と主張し、シーシーは司法取引をした結果、第二級殺人(過失致死罪)の罪で四十一ヶ月の懲役刑を言い渡された。そしてシーシーは「男性用」刑務所に収監されることになった。

この事件の「おかしさ」は、去年全米を揺るがしたフロリダ州のトレイヴォン・マーティン事件と比較するとわかりやすい。

地元の治安を守るとして見回りを続けていた自警団員ジョージ・ジマーマンは、家に向かって歩いていただけの丸腰の黒人少年トレイヴォン・マーティンを「怪しい」と決めつけてつけまわし、射殺しておきながら「正当防衛」を理由に無罪判決を手に入れた。しかし、現実に差別的な攻撃を受け、頬を十一針縫うほどの大怪我をしたシーシーには正当防衛は認められなかった。

シーシーの事件は多くの支援者を集め「シーシーを釈放せよ」という運動が広まった。そして収監されて十九ヶ月たった今月、シーシーはようやく釈放されることになった。

法律上の差別がなくなり、一見平等が実現したように見える現代の社会でも、差別はまだなくなっていない。有色人種への差別。同性愛者への差別。女性への差別。トランスへの差別。それは今も厳然と存在し、社会の中に深く刻みこまれている。

シーシーは十三日に釈放される予定だ。でも、彼女の戦いは終わらない。そしてそれは有色人種でありクィアである私達一人ひとりの戦いでもある。

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