アジア系ガールズバンド『ナイロンピンク』

『NYLON PINK(ナイロンピンク)』を知ったのは数年前のこと。

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初夏。プライドの時期だった。わたしとパーティガールズたちはと、あるガールズ向けクラブイベントのエントランスに並んでいた。

プライドシーズンのクラブはめちゃくちゃ混みあう。だから、行列での待ち時間も半端なく長かった。

わたしたちは退屈して、キョロキョロし始めた。周りの可愛い子をチェックアウトするのだ。

車の中で飲み干したショットがちょっと効いてきてたんだろう。
いい感じに「みんな友だち~」ってモードになってた。
まだクラブに足を踏み入れてもいないのに、楽しくてしかたなくて。

「ハッピープライドー♪」って目が合う度に笑いかけてハイファイブを交わした。

そこで知り合った、ちょっとパンキッシュだけどキュートなガールがJだった。Jはアジア人なのだけど、何かアメリカ生まれで、どこかの田舎町からミュージシャンを目指してLAに引っ越してきたばかりだとハスキーな声で言った。

LAにはマジでエンタメ業界でビッグになる!って夢を持って集まってきてるアーティストやクリエイティブな人々が多い。

東京から引っ越してきたばかりの頃、わたしは、LAにどうしてこんなに女優やアーティストが集まるのか不思議だった。

「それで食べていけるの?」

東京にいた頃わたしの周りには、意識高い系のビジネスマンばっかりで、アーティストやミュージシャンで「本当に」食べてる人なんてほとんど知り合いにはいなかった。新橋とか新宿に朝いって、夕方帰ってくるような会社員ばっかりだったし、自分もその一人だった。

けれど、気づいたらLAでは、わたしの周りはアクティビストとか、アーティストとか、ミュージシャンとかそんな人ばかりになってた。しかもそれが仕事になってるのだ。

はじめは驚いたけど、やがてわたしも「二枚の名刺」を持つことに慣れた。不動産屋だけど、写真家でもある。アニメーターだけど、俳優でもある。大学職員でもあるけど、ズンバの先生でもある。弁護士だけどアーティストでもある。へえ。それでいいんだ。ふうん。だからわたしも二枚目の名刺を持つことにした。会社とは関係ない、クリエイティブな名刺だ。クラブの中で、会社の名前が刷り込まれた名刺を差し出すなんて最高にクールじゃない。それが自分のビジネスだったらクール。でも、それが人の会社だったら……それが、ディズニーであっても、アップルであってもちっともクールじゃない。だって、わたしたちのいた社交の場はプライベートなものであって、商工会のビジネスネットワーキングじゃないんだから!




Jがプレイしていたバンドが『ナイロンピンク』だった。

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「全米唯一のアジア系ガールバンド」という謳い文句の彼らはセクシーでちょっとクレイジーでエキセントリックだった。

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Jが携帯電話を開いて「ほら、バンドメンバーの写真だよ」と写メールを見せてくれたのを覚えている。わたしたちは興味津々で覗きこんだ。

「この子たち、皆ゲイなの?」

Jはもったいぶるように首をかしげて笑った。

ヒップスターのように見えたJだけど、引っ越してきたばかりで友だちがいないのか何なのか、意外とどこに誘っても腰が軽く、一人でやってくるのだ。クラブで知り合って、「いえーい」って盛り上がっても、その後本当に一緒に遊ぶ「友だち」になれることはなかなかない。

彼女のちょっと斜視ぎみの目。ハイライトの入った髪。低くかすれた声。

業界人のように振る舞ってるJが、いつもわたしたちのパーティに来るのは少し意外だった。

それから、Jの振る舞いはちっとも「ロックスター」ぽくなかった。服装は確かにロックスターっぽく決めていたけど、彼女は実際には「あの子、可愛い」と大騒ぎして顔を赤らめるようなうぶなところがあった。そんなのまるでロックスターじゃないよね。しかも、Jは自分もブッチなくせに、もっとブッチな人が好みのようだった。Oだ。私たちは、Jのことを売り込もうとした。

「Jはね、ロックスターなんだよ!本当!グラミー賞を取る予定なんだから!」

半分冗談だったけど、Jは大まじめに「うん、本気でそれを考えてる」と言うのでまた笑ってしまった。

わたしたちは笑いながら、彼女の背中を叩いた。Jは一人ではOに話しかけられない。

Oはフェミニンな白人が好きだ。Jのことはそんなにタイプじゃないだろう。ちらっとこちらを見て曖昧に笑った。もともとOはわたしの親友Rがどこかで知り合って連れてきた子なのだ。でもRとOとの関係は進展していなかったはず。

「今日車できた?」
「ううん。タクシー」
「そっか…一緒に帰る?」

JはOを送り届けるといって二人で消えた。

その日何があったのかは知らない。

Jはいつの間にか音信不通になった。いつの間にかわたしたちのグループに入ってきていたJは、やってきた時のように、するっといなくなってしまった。Oとどうなったのかは知らない。Oは、看護婦の資格を取り、オレゴン州に引っ越した。Rもわたしも彼女が出来て、あの頃のように毎日パーティすることはなくなった。まあ行くとしたら、相当ホットなヴェニューでのパーティか。それかプライドか。

プライド。

何年か経ち、またプライドシーズンがやってきた。

LAプライドでパフォームするアーティスト達が発表になった。

『NYLON PINK』

あっ。

ナイロンピンクだ……。

わたしは、Jを探した。

でも、Jの顔は見つけられなかった。

何度見ても見つからない。

バンド、やめたのかな。

Jはどこに行ったのだろう?

いつの間にか彼女の名前も忘れてしまった

ナイロンピンクは今もLA近郊のイベントやYouTubeでK-POPのカバーを中心に活動している。

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