めまい

私は文章を書くのが速い。(読むのも速い)(ついでに喋るのもかなり速い)

が、何も浮かばない時はある。
何を書いていいのかわからない時はある。

そんなときは、何もないから何も書けないのではなく、
いろいろありすぎて何も書けないっていうのがほとんどだけどね。

だがそこに何もない時でも、何かを作り出して、面白い文章を紡ぎ上げること。
それが自分の知っている唯一の錬金術の方法だ。

鉛筆と、スケッチブックで、
ゼロから、何かを生み出す、魔法だ。

書くor描くことは、
現実を解釈することを超えて
新たな世界を想像することなのである。

つまり、書いてor描いている瞬間あなたは神と同じ能力を持っている。

☆ ☆ ☆

Honと私はすっかり退屈しきってクラブの壁にもたれかかっていた。

クラブを一回りして皆に挨拶しただけで小一時間が経過しようとしていた。
2年間WeHoに通いつめたあと、めぼしい美少女はほとんど顔見知りになり、たまに見つける新しい子は既に友達の友達か、もしくは、21歳になりたてでお酒の飲み方を知らないようなキッズばかりになっていた。

目の前で男女の軍団がはしゃいでいる。大胆な幾何学模様のワンピースを身にまとった大柄な女。ハイヒールのかかとをいじっている。カットしたてといった風情のヘアスタイル。アジア系だけど、その自信たっぷりの表情と姿勢は彼女がアジア系アメリカ人だろうということを連想させた。モデルみたいだ。何の気なしに彼女のことを見ていると、それに気づいたように彼女が一瞥をくれた。一瞬後、目にも留まらぬ速さでウィンクが飛んできた。微笑みのかけらもない、まっすぐに射るような目だ。

私はまるで麻酔銃で打たれたように動けなくなった。
3秒ほど視線を合わせたあと、私は必死で目をそらした。

今夜、この狭いクラブの中でいったいいくつものウィンクが飛び交い、欲望を混めた視線が交わされることだろう。

Honはそのことに気づいてない様子で「あーあ。なんか最近このクラブも最近なんだかなー」と文句を言っている。

☆ ☆ ☆

そうだ。

クラブは生き物。
毎日変わる。
客層は変わって行く。
そして自分も変わって行く。

毎日どこかで新しいパーティが始まり、情報を手に入れたクールな子たちがそこに一番はじめに移動する。自分たちだけの新しい遊び場所を探して。それから、だんだん噂を聞きつけた子や旅行者…なんかがそっちに移動してくる。

毎日毎日21歳になりたての子が、興奮で顔を異様なほど光らせながらやってくる。期待をたっぷりと胸に詰め込んで乗り込む。シングルになりたての子が不安そうな顔でやってくる。カップル達がしっかりとお互いを守り合うように手をつなぎながらやってくる…

私たちはそれをいつも見てる。1人1人にとって、運命にしか思えないスペシャルな出来事も、WeHoという街からしてみたら、毎日星の数ほどおこっているルーティーンにすぎない。アルコールのもやのなかで、社会への怒りも、将来への不安も、全て曖昧になって蒸発していく。

クラブの中でいいなーと思う子に話しかけて、フラートして、踊って、電話番号を聞きだし、デートに誘う。

この2年間、必死で美少女研究をして練習してきたのは上のプロセスの部分だけだったのか。

そう考えたらちょっと気が遠くなった。

クラブの先に、電話があり、電話の先に初めてのデートがあり、初めてのデートの先に…なにがあるの?キスして、家に招待して…、告白、おつきあいとかそういうのがあり、つきあいたての高揚があり、倦怠期があり、喧嘩があり仲直りがあり、友達付き合いがあり家族付き合いがある…私はこの2年間ずーっと入り口をうろうろしてただけだったなんて。なんてこったい!

こめかみを押さえて、脳に血流が正しくゆきとどくのを待つ。

「大丈夫?」気づくとHonが顔を覗き込んでいた。冷たいグラスを頬におしあてる。

大丈夫だよ。ただちょっと…人生の深淵に圧倒されていたのさ。

私たちはいつもより早くクラブを抜け出して、駐車場に座り込んだ。

今でもWeHoは好きだ。
二丁目が好きだったように。

でも、最近WeHoに飽き飽きしてるのも事実なんだ。
二丁目にうんざりしていたように。

それでも自分が女のことを好きであるかぎり、そこに仲間がいるかぎり、私はそこを無視できない。
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